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「今、娘のルルが急に体調を崩して、病院に向かっているんだ」
ある日突然、ジョコから届いた一本の電話。
その声は、いつもと違っていた。不安と恐怖に震えていた。
ただならぬ空気を、言葉越しに感じた。

それまで何の前触れもなく元気だったルル。
たった数時間前まで、笑っていたルルが――
病院に着いたその日、心臓病であると診断された。

医師から告げられたのは、想像を絶する現実だった。
「このままでは命がもたない。心臓移植が必要です」

それは、ただ心臓を待てばよい、という話ではなかった。
一刻を争う状態の中で、オランダで前例のない“外部補助心臓装置”の手術が急遽行われた。
奇跡的に手術は成功。しかし――
それは“延命”であり、“救い”ではなかった。

「ドナーが現れなければ、この命は守りきれない」
しかも、まだ幼いルルには、大人の心臓は合わない。
彼女を救うには、“子どもの心臓”でなければならなかった。

その現実は、残酷で、あまりにも重かった。
命がつながるということは、同時に誰かの命が終わるということ。
希望を願う一方で、その陰にある別の家族の涙を想わずにはいられなかった。

ジョコ一家は、重い病の子どもたちが集まる病棟で、毎日を共に過ごした。
助けを待つ小さな命。消えていく命。
そのたびに響く叫び声と涙。
愛する者を見守るしかできない親たちの、静かな絶望。
そのすべてを、彼らは見て、耐えて、祈っていた。

そんな中でも、ジョコは揺るがなかった。
悲しみも恐れも受け止めながら、それでも前を向き、家族を支え続けた。
彼の心は、決して壊れなかった。むしろ誰よりも強くあろうとする意志に満ちていた。

そして――ある日、本当に奇跡が起きた。

「ドナーが見つかった」
その瞬間のことを、私は一生忘れない。

ルルは、小さな体に新しい命を迎え入れた。
その命は、ほかならぬ“子どもの心臓”。
同じように生きたかった誰かの命が、ルルの中で生きている。

「心臓が見つかれば、大丈夫だよ!」
入院中も、誰よりも笑っていたルル。
その笑顔は、命の重さを知っているからこそ、まぶしかった。

彼女の強さは、命の尊さを、私たちに静かに思い出させてくれた。

生きるとはなにか。
希望とはなにか。
命とはどれほど重く、そして美しいものなのか。
彼女はすべてを、笑顔で教えてくれた。

ジョコはこの経験を、世界中の誰かの希望になるようにと、本に記録します。
日本語・英語・オランダ語の3つの言語で出版され、その売上は同じ境遇にある子どもたちのために、すべて寄付されます。

命は、つながっている。
希望は、巡っている。
そして、想いは届く。

あの日、私たちはそのすべてを、ひとりの小さな勇者の中に見た。

私にも、ルルと同じくらいの年齢の息子がいます。
もし自分の子に同じことが起きたら――私は、あの家族のように強くいられただろうか。
そう思わずにはいられません。

そして今、私もジョコと共に、この経験を本という形にしようと動いています。
この物語が、誰かの命の希望になることを、私は静かに信じています。

株式会社インターリンク
代表取締役 今村 宏志